人と人との出会いにはタイミングがある。

“もっと早く出会いたかった”と言ってみても、そのときはひょっとしたら、出会っていてもだまって通り過ぎていたかもしれない。出会ったときが出会うべくした“時”なのである。

「MSG」という名のこのバンド。メンバー3人の頭文字、つまりミッキーヤマモト(MickeyYamamoto)の“M”、豊島修一(Shoe)の“S”、後藤納央人(GO-TO)の“G”をそのままバンド名にしたもので、けしてマゾとサドとゲイの3人がバンドを結成したのでないことは明白である。

芸歴がとりあえず長い2人とまあまあ長い1人が出会うにも、やはりそれだけの紆余曲折が必要だったのである。

豊島修一(以下シュー)の音楽的キャリアの出発点は、秋田出身のフォークデュエット「とんぼちゃん」である。そして次に「ヒーロー」「アンナ」などのヒット曲でおなじみの「甲斐バンド」。しかもピアノ担当として……。

べつにピアノを習っていたわけではない。近所でも有名なギター小僧だったシューが、たまたま音楽的教養として独学でピアノを弾きかじっていただけである。それが甲斐バンドのピアニストとしてライブ及びレコーディングをサポートすることになった。なんと無謀な……と誰しもが思うことではあるが、じつはそれは本人がいちばん思っていることであった。

しかしその後は本来のギタリストとして多くのバンドのサポートをこなしてきたが、やはり特筆すべきは“ダンシング・オールナイト”の大ヒットでおなじみの「もんた&ブラザーズ」での活躍であろう。

シューのミュージシャンとしての特性はただギターが弾けるというだけではない。もちろんギタリストとしての存在は大きく、またそのアレンジ能力も優れたものをもつシューではあるが、それ以前に人間としての質の高さを誰しもが実感せざるを得ない。

“もんた”という人、なかなかヤンチャな人である。人の好き嫌いも激しい。だからこそ独自の世界観をもつ希有なボーカリストとしてやっていけるのであろう。が、この“もんた”さん、シューさんと大の仲良しなのである。コンサートが終わるといつも一緒に飲みに……は行かず、サウナに直行してゆったり・のんびりしてその日の疲れを癒したものである。

“もんブラ”でのギタリストとしての活躍について? そんなものここに改めて言うまでもないッショ。だってプロのギタリストなんだもの。それより、“もんた”さんが体と心の疲れを癒すのにいつもシューと一緒だったということのほうが大きい。

人の気持ちを自然に優しくしてくれる。そんなシューの人間性がそのギタープレイを見るにつけ感じることができる。けして流麗なギタープレイではない。手慣れた小器用さの欠片もない。ゴツゴツしている。感情がそのまま音ににじみ出ている。テクニックを表現の手段にしていない。表現が先に来るのである。その表現を、音を並びとして置き換えるときに必要ならばテクニックを使う。

とにかくサウンドの幅が広く、大きく、まるで“ぬりかべ”がノッシノッシと迫ってくるようなのである。

さて一方の長キャリ・メンバーはベース、ボーカルのミッキーヤマモトである。彼が世に出たのは、長年のロックファンにはよっくご存じの「柳ジョージ&レイニーウッド」でである。どちらかというと、わりと地味めであった「柳ジョージ&レイニーウッド」のステージでひとり気を吐き、当時のファンに「なんだか外タレバンドを見にいくような気分でしたね」と言わせしめたのは、やはり彼のもつルックス&エネルギッシュなステージングによるところが大きかったであろう。

「柳ジョージ&レイニーウッド」解散後はセッション・ミュージシャンとしてキャリアを積んでいくなか、つねに言われ続けていたのが「ミッキーさんはどんな楽器を使っても出てくる音は同じだね」であった。

またあるギタリストに言わせると「ミッキーのベースの音はバ・ビ・ブ・ベ・ボだからな。バーッときてビーン、ブリブリと出てベーン、ボガーンだもんな」って、あんまり意味わかんないけど、なんかわかる……。

なぜか、同じベースを同じセッティングで弾いても、他のベーシストとはサウンドが違う。つまり音の幅が分厚く広いのである。だから一発一発がズゴーンとくる。しかも「近頃、弾きまくるときは弾くけど、弾かないときは1小節に1つ音があったらいいんじゃないかなって、そんな気がする」(ミッキー談)と言うのを聞くと、通常の音楽の常識からちょっとはずれているように感じるけれども、やっている音楽はブルースをベーシックにしたとてもわかりやすいロック・サウンドだ。

シューのギターサウンドも前述のように幅がある。さあ、ステージの右と左で分厚く幅の広いギターとベースのサウンドが真ん中でぶつかったら……みなさんは、いったいどんなサウンドを想像しますか?

最近“ロック”を冠したバンドが多いけれど、ほんとにそこにロックを感じさせてくれるバンドは極端に少ない。シュー曰く「なんだか高校生の頃はじめてバンドをやったときのような新鮮な何か熱いものを感じるね、MSGに」。

シューのギター、ミッキーのベース、ボーカルにピュアな、ビジネスの汚れのない、じつにロックなエネルギーの強さを感じるのである。

さぁて、そこで困ったのが、そんなギターとベースに挟まれたドラムのGO-TOである。

若い頃から横浜を中心にさまざまにセッションを重ねてきた、芯の強いドラマーである。できるだけ手数を抑え、一発一発のショットを忠実に打つことで両方から迫ってくる怒濤のような音壁をしっかりととりまとめている。

簡単に言ってしまうと、両隣で好き勝手やっているおっさん達の手綱をしっかり握って誘導しているというところか。だからなのか、それとも年下なので面倒くさいことを押しつけられているのか(たぶん後者だろう)、このバンドのリーダーである。

じつに的確なビートを打ち出す。フィルのセンスも抜群! なのだが、この人の場合も、やはりその人間性を伝えなければいけない。掛け値なしのまっすぐな性格は信頼性が高い。だからこそ、シューもミッキーも彼を頼っているのだが、シューとミッキーを出会わせたのがこのGO-TOである。

「シューさん、いいベーシストを紹介したいんですけど。いい人なんですよ、その人」

「ミッキーさん、いいギタリストを紹介したいんですけど、いい人なんですよ、その人」

なんと2人に対してまったく同じことを言ったそうである。

はじめてその3人が顔を合わせたとき、シューはミッキーに新鮮なロックを感じ、ミッキーはシューに心の安らぎを感じ、GO-TOはそれを見ながら一人ほくそ笑んでいたのであった。

このバンドの音量? でかいでしょうねぇ。でも耳にキンキン来ないんですよね。音は大きいけれどうるさくない。

熟練したミュージシャンの出す、エネルギーの詰まりまくったロック・サウンドはなぜかノドが渇く。ビール、おかわり!!